旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2016年12月26日更新
旅とアートのarTravel -annex-
旅行記者・ライター:Tomoko Nishio

世の混乱の中、祈りは国境を越えて。クリスマスでなくとも訪れたい「きよしこの夜」が生まれた町へ

「きよしこの夜」礼拝堂zoom
「きよしこの夜」礼拝堂

クリスマスの時期になると必ず一度は耳にする聖歌「きよしこの夜(ドイツ語:Stille Nacht)」。
1818年12月24日、オーストリアのザルツブルク近郊、車で10分ほどのオーベルンドルフの村にある聖ニコラウス教会で初めて披露されました。
この教会自体は1899年に洪水で流されてしまい、今は「きよしこの夜礼拝堂」として、小さなチャペルが建っています。
オーストリアの小さな村で生まれた聖歌は、今では300以上の言語に訳され、世界中で歌われています。

作曲グルーバー(左)と作詞モール(右)zoom
作曲グルーバー(左)と作詞モール(右)

作詞者はヨーゼフ・モール。
1817年、この教会に赴任してきた司祭です。
歌詞はすでに1816年に造られていましたが、歌が生まれたのは1818年のこと。
そのきっかけは諸説ありますが、クリスマス・イブの日、聖歌の伴奏をするためのオルガンが壊れてしまい、急遽ギター演奏で歌える曲を、教会のオルガン奏者であるフランツ・クサーヴァー・グルーバーに依頼し、グルーバーは短い時間でしたがミサに間に合うよう、曲を作り上げたのだとか(また作曲についても諸説あるようで、公式ではモール作詞、グルーバー作曲となっています)。

聖ニコラウス教会にあった祭壇彫刻。中世のものですzoom
聖ニコラウス教会にあった祭壇彫刻。中世のものです

何度も年号をちまちまと出すのにはわけがあります。
1816年。
これはザルツブルクにとっては、一つの歴史の終焉が決定的となった年だからです。

ザルツブルクは今でこそオーストリアの町のひとつですが、歴史的には13世紀に正式に神聖ローマ帝国から領主権を与えられ、ザルツブルク大司教領として独自の権限を持ち、その後19世紀の初頭まで、「ザルツブルク」という、いわば独立した都市として栄えました。
町のレジデンツや大噴水、『サウンドオブミュージック』の舞台として知られるミラベル宮殿やヘルブルン宮殿など、現在ザルツブルクに建つ主要な建物は大司教領時代につくられたものです。
余談ですが、ザルツブルクで生まれたモーツァルト(1756~1791)は、いわばザルツブルク人であったわけです。

しかし18世紀末から19世紀初頭、ナポレオン戦争の嵐がヨーロッパに吹き荒れ、オーストリアにもフランス軍が攻め寄せます。
1803年、フランス軍の占領を恐れ亡命していたザルツブルクの大司教が領主権を放棄し、大司教領としてのザルツブルクは終止符を打ちます。
その後オーストリアとバイエルン(ドイツ)が覇権を争いますが、結局ウィーン会議の決定を受け1816年、ザルツブルク、そして「きよしこの夜」の町もまたオーストリアに編入されることになりました。

チャペル内にある「きよしこの夜」の楽譜zoom
チャペル内にある「きよしこの夜」の楽譜

戦争、そして一つの時代の終焉とそれによる混乱が人々にもたらす影響は大きかったでしょう。
いつだって割を喰うのは庶民です。
オーベンドルフの人々はザルツァハ川を利用した塩の交易が主要産業で、小さな町の人々はほとんどがこの仕事に従事していました。
しかし戦争により交易が減少し、さらにウィーン会議による新たな国境の線引きで塩交易の拠点のひとつであるザルツァハ川の向うにあるラウフェンの町が、バイエルン領となってしまいます。
塩交易は回復せず、職を失う人が続出しました。
「きよしこの夜」の作詞者、モールはそんな生活苦にあえぐ人々の姿を見ていたのでしょう。
「人々に希望を与えたい、そんな思いで書かれたのでは」とガイドさんは仰いましたが、司祭様ですし、私もそうだったろうと思います。

それはこの「きよしこの夜」が誕生後まもなく、国境を越えてドイツやヨーロッパ各地へと広まっていったからです。
その後さらにアメリカへ、そして日本でも今ではすっかりお馴染みの曲となっているのは、皆さんご存知の通りです。

わかりやすい歌詞、覚えやすく美しいメロディ。
耳を傾け口ずさみたくなる歌には、それが人の心に響くものであるほどに伝搬し、広まり、国境を越えていきます。
歌詞はその国のものに意訳されて行きますから、ドイツ語の原詩の歌と日本語のものは全く同じものではありませんが、その真意、曲に込められた何かしらの「こころ」は伝わるのではないでしょうか。
そして、人の本質、平穏と安寧、平和と安らぎを求める気持ちは同じなのではないか、そんな気にもさせられます。

「きよしこの夜」博物館zoom
「きよしこの夜」博物館

小さなチャペルにはささやかな平穏を願う、そんな人々の素朴な希望のかたちを伝えているように思います。
そしてチャペルのすぐそばの博物館には、当時の人々の生活の様子が展示されています。
人々の素朴な願いと祈り。
そんな願いのかたちが、この礼拝堂と博物館から感じられます。
クリスマスでなくとも、ぜひ一度、訪れたい場所です。

「きよしこの夜礼拝堂」zoom
「きよしこの夜礼拝堂」
旅行記者・ライター:Tomoko Nishio
旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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