旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2018年7月16日更新
共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査委員:大塚圭一郎

「赤毛のアン」のパートナーはどこに!? プリンスエドワード島で名所巡り【連載「隠れた鉄道天国カナダ」第4回】

△ミュージカル「アンとギルバート」の主役アン(左)とギルバート(筆者撮影)zoom
△ミュージカル「アンとギルバート」の主役アン(左)とギルバート(筆者撮影)

 (「連載『隠れた鉄道天国カナダ』第3回」からの続きです)
 カナダのローレンス・マコーレー農務・農産食品大臣から頂いた小説「赤毛のアン」の主人公アン・シャーリーの人形に導かれるように訪れた物語の舞台、カナダ東部プリンスエドワード島。この風光明媚な島で「赤毛のアン」ゆかりの名所を巡る「アン」番となった私が自らに課したもう一つの使命は、アン人形のパートナー探しだった。赤い髪をした少女の人形に似つかわしいパートナーは果たして見つかるのか?

△プリンスエドワード島ニューロンドン村にあるモンゴメリの生家(筆者撮影)zoom
△プリンスエドワード島ニューロンドン村にあるモンゴメリの生家(筆者撮影)

 ▽パートナー選びに番狂わせも!?
 プリンスエドワード島の州都にして最大都市のシャーロットタウンは本場にふさわしく、ミュージカルの本編である「赤毛のアン」と、続編に当たる「赤毛のアンとギルバート」を夏休みを中心とした期間にほぼ連日上演している。「赤毛のアン」は中心部にある州議事堂の隣にある「コンフェデレーションセンター」で楽しむことができ、「赤毛のアンとギルバート」を上演している劇場「ザ・ギルド」も目と鼻の先にあるので足を運ぶのには至極便利だ。
 日本ではエステーが今年で21年目を迎えたミュージカル「赤毛のアン」を主催し、無料で観客を招待している。私も以前にチケットを頂いて家内とともに観劇し、そして感激した。いわば本編を既に観賞しただけに、残る選択肢は「赤毛のアンとギルバート」となる。
 「赤毛のアン」の主な登場人物と言えば、アンがカナダ東部ノバスコシア州の孤児院を出て11歳で身を寄せるアボンリー村の家「グリーン・ゲイブルズ」で暮らすマシュウ・カスバートとマリラ・カスバートの兄妹、親友のダイアナ、そして幼なじみで夫となるギルバート・ブライスだ。アン人形のパートナーは、それらの4人に絞り込まれる。順当な流れではタイトルのダブルキャストとなっているギルバートが本命候補となろう。
 ところが、番狂わせが起こる可能性を秘めていた。というのも、現地への出発を控えてプリンスエドワード島観光局の高橋由香さんに島内のレクチャーをしていただいた際、うかがった言葉が脳裏に焼き付いていたからだ。
 「『赤毛のアンとギルバート』のミュージカルは今年キャストが代わり、アンを演じる女優さんはかわいくてとても似合っているのですが、ギルバート役の俳優さんのほうは…。個人的な意見ですが、私は前の俳優さんのほうが良かったなと思いました」
 この台詞が印象に強く残ったのは、物腰柔らかな高橋さんにしては珍しくはっきりと個人的な意見をおっしゃったからだった。舞台の展開次第では、ギルバート以外の登場人物がパートナーとして急浮上する可能性もあるかもしれない…。

△モンゴメリの生家2階にある誕生した寝室(筆者撮影)zoom
△モンゴメリの生家2階にある誕生した寝室(筆者撮影)

 ▽幕開けで早速登場したギルバートは…
 舞台の幕が上がると、アボンリー村の学校の教室で女学生たちが教師ことギルバートに憧れ、到着を心待ちにしている様子が演じられる。すると、ギルバートが早速教壇に立って女学生らのハートをわしづかみにした。果たして演じる俳優はギルバートを演じるのに適役なのか、それともミスキャストなのか!?
 私の第一印象は「おや、ギルバートに似つかわしい好青年風ではないか」という意見だった。続いて登場したアン役の女優さんは確かに華やかで素敵だったが、ギルバート役の俳優さんも適役だと受け止めた。ギルバートが教職をアンに譲ったのをきっかけに2人が近づく様子を、俳優さんたちが歌唱とともに全身で表現する。状況がめまぐるしく代わる舞台の展開に引き込まれていると、めでたくハッピーエンディングを迎えた。
 ギルバート役の俳優さんについて、高橋さんと同じく「赤毛のアン」のファンである家内に意見を求めるとこう言われた。「私はいいと思うけれども、『赤毛のアン』の読者にはギルバートに『こうあってほしい』という強いイメージを持っている人が多い。だから、高橋さんの反応も理解できる」
 さいは投げられた!ミュージカル「アンとギルバート」を観賞後、我が家に飾ったアン人形のパートナーはギルバートしかいないと確信を深めた。

△米国コネティカット州を走るアムトラックの北東回廊列車(筆者撮影)zoom
△米国コネティカット州を走るアムトラックの北東回廊列車(筆者撮影)

 ▽作者の生家で英語の次に記された説明文は…
 かくして「赤毛のアン」のパートナーを探しに、プリンスエドワード島の名所を巡る旅を進めた。向かったのは作者のルーシー・モード・モンゴメリが1874年11月30日に生まれたニューロンドン村の生家だ。この家の前には産婆さんが住んでいたので、出産に万全な環境だったという。
 公開されているモンゴメリの生家を訪れると、生を受けた2階の寝室の入り口に張られた説明文に英語の下に「ルーシー・モード・モンゴメリが1874年11月30日に誕生した部屋。」と日本語で記されているのに感動を覚えた。カナダでは英語の次に記されるのはもう一つの公用語のフランス語が一般的で、日本語が併記されているのは極めて異例だ。アン愛好家の日本人観光客が大勢足を運び、存在感を示してきたことが見て取れる。
 当時使われていたビクトリア様式の家具をしつらえた生家には、モンゴメリが結婚式で着たウェディングドレスのレプリカ(模造品)や直筆の手紙、自作の詩や物語を張り付けたスクラップブックを展示している。中には、三女の絢子さまが今年7月2日に婚約内定を記者会見で公表した高円宮久子さまが来島した際の英文記事も紹介されており、日本とプリンスアイランド島との絆の強さを改めて再認識した。

△プリンスエドワード島のホテル「ダルベイ・バイ・ザ・シー」(筆者撮影)zoom
△プリンスエドワード島のホテル「ダルベイ・バイ・ザ・シー」(筆者撮影)

 ▽アムトラックで通る同名都市
 大海原が広がるニューロンドン港を望むモンゴメリの生家にたたずんでいて思い出したのが、アメリカ(米国)東部コネティカット州にある同名の都市だ。勤務先のニューヨーク支局駐在中にボストンへ向かう全米鉄道旅客公社(アムトラック)に乗っていると海岸線に沿って線路が大きく曲がり、列車が徐行する区間がある。
 ふと車窓を眺めると、白い砂の美しい海岸線が視界に入る。やがて列車はニューロンドン駅のプラットホームに進入する。
 列車で通り過ぎるたびに、「いつかこの近くのリゾートホテルに滞在し、白い砂の海岸線の奥に夕日が沈む様子を一望したい」と思っていた。それは実現しないままだが、北東に900キロ以上も離れたプリンスエドワード島で、同じ地名で同じように風光明媚なニューロンドンに足を踏み入れることができたのは運命のなせる技だろうか!?

△「ダルベイ・バイ・ザ・シー」に飾られている「心霊写真ではないか」とされる写真zoom
△「ダルベイ・バイ・ザ・シー」に飾られている「心霊写真ではないか」とされる写真

 ▽「白い砂のホテル」にすみつく亡霊!?
 「白い砂」と言えば、「赤毛のアン」に登場する「ホワイト・サンド・ホテル」(日本語で「白い砂のホテル」の意味)のモデルとされるのがプリンスエドワード島のセントローレンス湾を望む国立公園内にある古風な木造建築のホテル「ダルベイ・バイ・ザ・シー」だ。
 1985年に公開された映画「赤毛のアン」では、「ホワイト・サンド・ホテル」として撮影された。英国のウィリアム王子とキャサリン妃が2011年4月の結婚後で初めての海外公式訪問で11年6~7月にカナダを訪れた際もホテルに立ち寄ってバーベキューを楽しんだ。カナダは英国連邦の加盟国で、元首はエリザベス女王だけに、孫に当たるウィリアム王子夫妻の訪問はひときわ重い意味を持つ。
 ホテルと「赤毛のアン」、英国王室をつなぐ縁を実感させるのが、建物が「クイーン・アン様式」と呼ばれる建築様式を採用していることだ。これは18世紀前期のアン女王統治下の英国で生まれた様式を起源とし、建てられた19世紀後期から20世紀前期にかけて流行していた。
 建てたのは、「石油王」として有名な米国人の故ジョン・ロックフェラー氏とともに石油業で財をなした実業家の故アレクサンダー・マクドナルド氏。1896年に別荘として建設し、「ダルベイ・バイ・ザ・シー」というのはマクドナルドが幼少期を過ごしたスコットランドの家の名前から取ったという。
 暖炉の前にソファーをしつらえたロビーがあり、階段で上がった2階の回廊を見渡せる。木をふんだんに使った重厚感のあるたたずまいは、日本で言えば上高地帝国ホテル(長野県松本市)をほうふつとさせる。
ダルベイ・バイ・ザ・シーのロビーに現れたセールスマネージャー、カイル・マッキンノンさんに「美しいデザインのホテルですね」と話しかけると、「ありがとう。このホテルの建物には面白い逸話がいろいろあるのですよ」と歴史をひもときながら案内してくださった。
 ところが、階段を上って客室へ向かう廊下でマッキンノンさんは足を止め、壁に飾った写真を指さすと表情をこわばらせてつぶやいた。「見てください、これは心霊写真ではないかと言われている写真です。ほら、奥にいるはずのない人が奥にうっすらと写っているでしょう…」
 「赤毛のアン」の世界を華やかに彩る「白い砂のホテル」が、まさかの呪われたホテルだったとは…。前日夜に観賞したミュージカル「アンとギルバート」の明るくテンポが良い舞台から一転し、さらに足がすくむような展開が待ち受けていた。
 (連載コラム(「“鉄分”サプリの旅」)の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査委員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社し、松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)編集局経済部、ニューヨーク特派員を経て、2016年10月から現職。国際経済のデスクの傍ら、運輸・観光分野や海外関連を中心に取材と執筆、ラジオ出演などを手掛ける。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査委員、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣で、休日には「子鉄」の息子と鉄道旅行に出掛ける。SBC信越放送(長野県)の平日のラジオ番組「らじ☆カン」(午後2時5分~6時15分、http://sbc21.co.jp/blogwp/radikan/)の午後5時台のコーナー「きょうの注目」に他の共同通信社のデスク・記者とともに出演。

2004年5月から通信添削大手Z会(静岡県)の週刊メールマガジン「社会をよみとくキーワード」(http://www.zkaiblog.com/zkai04)を連載中。共著書に『伝える訴える「表現の自由」は今』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。東京外大の校友会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)理事
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