旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2018年9月15日更新
共同通信社 福岡支社編集部 次長・鉄旅オブザイヤー審査委員:大塚圭一郎

鉄道ファン必見!カナダの名物寝台列車 鉄旅審査員の海外一押し旅【連載「隠れた鉄道天国カナダ」第8回】

△カナダ・アマースト駅に入線するVIA鉄道の寝台列車「オーシャン」(筆者撮影)zoom
△カナダ・アマースト駅に入線するVIA鉄道の寝台列車「オーシャン」(筆者撮影)

 (「連載『隠れた鉄道天国カナダ』第7回」からの続きです)
 カナダ東部プリンスエドワード島を訪れて今年で発刊110周年を迎えたルイス・モード・モンゴメリの小説「赤毛のアン」の世界を満喫した後、私は「北米のパリ」と呼ばれる美しい街並みのモントリオールへ向かった。約1時間20分で着く空路を放棄し、私が選んだのは約21時間のバスと鉄路の旅だ。
 お目当ては、カナダのVIA鉄道が誇る運行開始が114年前の1904年と、「赤毛のアン」が世に出た時代から走る寝台列車「オーシャン」の乗車だ。私は日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」の審査委員であるとともに、VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」のメンバーに入っており、オーシャンは最もお気に入りの“海外一押し列車”だ。カナダが「隠れた鉄道天国」なのを物語る次のヤマ場が、ここに幕を開ける―。

△プリンスエドワード島からアマーストへのバスは、まるで大学のアメフトチームの応援用の装いだ(カナダ・アマーストで筆者撮影)zoom
△プリンスエドワード島からアマーストへのバスは、まるで大学のアメフトチームの応援用の装いだ(カナダ・アマーストで筆者撮影)

 ▽行き先に、運転手が怪訝な表情
 「バスに乗るのはアマーストまででいいのだね?」。プリンスエドワード島の最大都市シャーロットタウンでバスに乗り込んで切符を見せた際、男性運転手が怪訝な表情で念押しした。車体には地元大学のアメリカンフットボールチーム名を大きく装飾しており、応援用のバスに誤って乗車したのかとも一瞬思ったが、運転手が不思議がったのはそれが理由ではなかった。
 私が持っている切符はノバスコシア州アマーストまでで、外国からの旅行者としては異例の行程のため戸惑ったようだ。私が予約したVIA鉄道のオーシャンの切符はアマーストからモントリオールまでのため、当然のようにアマーストまでのバスの切符を予約した。
 しかし、アマーストは人口が1万人に満たない小都市で、オーシャンが発着する無人のアマースト駅とバスのアマースト停留所は歩ける距離とはいえ離れている。オーシャンとバスを乗り継ぐ客が一般的に乗りかえるのはニューブランズウイック州の人口約7万人の都市モンクトンのため、運転手は首をかしげたようだ。
 私は「はい、アマーストまで乗ります」と答えたものの、VIA鉄道に予定通り乗り継げるのか一抹の不安がよぎった。

△カナダ・ノバスコシア州に林立する風力発電(筆者撮影)zoom
△カナダ・ノバスコシア州に林立する風力発電(筆者撮影)

 ▽一風変わったルートを選んだ理由は?
 そのようなリスクを抱えながらも、私はなぜアマースト駅経由という一風変わったルートを選んだのか?それには次の三つの理由があった。
 一つは、オーシャンにより長く乗れるからだ。オーシャンはモントリオールとノバスコシア州の州都ハリファックスの間の約1346キロを約22時間かけて走る。運転するのは週3往復だけなので、プリンスエドワード島からの帰路にちょうど乗れただけでもとてもラッキーに感じられる。
 ハリファックス発のオーシャンは先にアマーストに停車し、モンクトンに着くのは約1時間後だ。1泊2日の優雅な寝台列車体験を少しでも長く楽しんだほうが“お買い得”と言えよう。
 二つ目は、目玉となっている列車最後尾に連結されたステンレス製展望車の2階にあるガラス張りのドーム部分の座席を確保する狙いだ。大自然の中を抜ける360度の車窓を楽しめるのが売りで、展望席に立ち入ることができるのは個室寝台の予約客の“特権”だが満席の場合も多い。アマーストで一足早く乗り込めば、座席を確保できるのではないかという算段だ。
 最後の理由は、降り立ったことがないアマースト駅に立ち寄りたかったからだ。私はアメリカ(米国)ニューヨーク支局に駐在中の2015年7月に、「子鉄」の息子の強い希望を追い風にオーシャンに乗ってモントリオールからハリファックスへ移動し、帰路はハリファックスから途中のケベックシティ近郊サントフォアまで乗った。途中、15分間停車するモンクトンのプラットホームに降り立ったが、停車時間の短いアマーストでは列車の外に出られなかった。
 往々にして安全パイを捨てて好奇心を持ったほうを優先する私は、アマースト駅からオーシャンに乗り込む選択肢を選んだのだ。

△無人駅となっている人けが少ないVIA鉄道アマースト駅(筆者撮影)zoom
△無人駅となっている人けが少ないVIA鉄道アマースト駅(筆者撮影)

 ▽ドン・キホーテ気分に
 シャーロットタウンを定刻通り午後1時に出発したマリタイムバスは運転席の横に乗降口があり、リクライニング座席を備えた高速バスの仕様だ。途中のバス停に寄りながらプランスエドワード島を進み、1時間近くたつと巨大な構造物が前方に見えてきた。
 カナダ本土のニューブランズウイック州と結ぶ唯一の橋「コンフェデレーション橋」(全長12・9キロ)だ。1997年に完成すると、プリンスエドワード島がカナダ連邦に加わった1873年から約124年を経て“陸続き”になったことに地元は喜びを爆発させた。橋は高速道路の一部となっており、片側1車線、計2車線の道路が瑠璃色の海をまたぐ。
 午後2時50分ごろに到着したアマースト停留所は、幹線道路沿いのエッソのガソリンスタンドだ。VIA鉄道のモンクトン駅へ向かう乗客は、ここで接続するハリファックス発モンクトン行きのバスに乗り継ぐ。
 私はアマースト停留所までのチケットのため徒歩でアマースト駅へ向かったが、ここで大きな壁にぶち当たる。海外旅行なので重いキャリーバッグを引いており、普段より歩行速度が遅くなる。しかも駅へ向かう道路は歩道が整備されていない区間も多く、他の歩行者はまばらな中で自動車やスクールバス、さらには大型トラックまで猛スピードで横をすり抜けていく。
 重いキャリーバッグを引きながら自動車が通過していく隣を恐る恐る進んでいると、遠くに風力発電が並んでいるのが視界に入った。風車を巨人に見立てて対決を挑む立ち向かうスペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』の主人公ドン・キホーテになった気分になり、「巨人を倒せ!」と意気込みながら歩を進めると駅へ向かう足取りが軽くなった。プロ野球セ・リーグの球団「中日ドラゴンズ」のファンの筆者は「アンチ巨人(読売巨人軍)」なので、ドン・キホーテに感情移入しやすいのだ(笑)。

△VIA鉄道の寝台列車「オーシャン」の個室寝台でくつろぐ筆者zoom
△VIA鉄道の寝台列車「オーシャン」の個室寝台でくつろぐ筆者

 ▽いよいよ運行開始114年の“老舗”寝台列車に
 スマートフォンで事前に眺めたウェブサイトの地図の記憶通りにキャリーバッグを引きながら40分ほど歩くと、VIA鉄道のアマースト駅にたどり着いた。重い荷物を抱えながら、発車時刻の30分前に到着できたのは上出来と言えよう。
 しかし、もしもこれが旅行会社のパッケージツアーの添乗員が同じ行程を選んだ場合、参加者から苦情が殺到して「添乗員失格」の烙印(らくいん)されかねない。重い荷物を抱えて、十分に整備されていない道路を40分間突き進むのは禁じ手であろう。VIA鉄道とバスを乗り継ぐ場合、モンクトン駅で乗り継ぐのが一般的なわけだ。
 アマースト駅は赤い三角屋根が特徴的な立派なたたずまいの駅舎だが、今や無人駅となっている。プラットホームの乗車口と記された位置に立っていた男性の後ろで待ったが、ハリファックス発寝台列車「オーシャン」(列車名「VIA015」)は出発時刻の午後4時8分になっても姿を見せない。
 5分遅れの4時13分になると、列車接近を知らせる「カンカン…」という鐘の音を鳴らし、「ゴー」というけたたましいエンジン音とうならせながら2両のディーゼル機関車が、緑色の間に黄色のラインが入った客車、そして後部にステンレス製の展望車などをけん引した列車が進入した。先頭の機関車は、銀色の車体に「40ANS 40YEARS VIA」と記した2017年のVIA鉄道発足40周年を記念した特別塗装だ。
 オーシャンはインターコロニアル鉄道時代の1904年に運転が始まり、同社を吸収合併したカナディアン・ナショナル鉄道(現在の呼称はCN)に引き継がれた。不採算の旅客鉄道部門を立て直すため、77年に独立したのが現在運行するVIA鉄道だ。
 乗車口に停車した客車の扉が開き、低いホームから乗降するための階段が出てきた。「ウェルカム(ようこそ)!」という男性車掌が前に立っていた男性はすんなりと乗り込んだが、男性車掌は私に「君はスリーパー・プラス・クラス(個室寝台)に乗るのではないか?」と尋ねてきた。「そうですよ」と予約内容を記した紙を見せると、「君のことは聞いている。乗り口は一番後ろだ」と教えられた。小さい無人駅で、利用するのはもっぱら常連さんなので、スリーパー・プラス・クラスの乗り口を表示していなかったようだ。

△VIA鉄道モンクトン駅に停車中の「オーシャン」(筆者撮影)zoom
△VIA鉄道モンクトン駅に停車中の「オーシャン」(筆者撮影)

 ▽個室寝台で待ち受けていたのは…
 ただでさえ5分遅れで到着したのだから、私のホームでの移動がこれ以上の遅延要因となっては他の乗客の迷惑になってしまう。キャリーバッグを引き、「巨人を倒せ!」の心意気で駅へ向かってきた時よりも早足でホーム後方の乗車口へ向かった。
 改めて感心したのが、他の乗車口にいた車掌も含めて「慌てなくていいよ!」と声を掛けてくれた心遣いだ。ホスピタリティーでVIA鉄道に見劣りするアメリカ(米国)の全米鉄道旅客公社(アムトラック)ならば、冗談であっても「君のせいでこれ以上遅れたら損害賠償を請求するぞ!」と脅されるかもしれない(苦笑)。
 ようやくたどり着いた寝台車は、客車番号「1538」。女性車掌に案内してもらった4号室は、シャワーとトイレ付きの2人用寝台個室だ。夜になると座席の背もたれ部分を引き出して下の段のベッドとなり、2人で利用する場合は上段に格納しているベッドも引き出して2段寝台として利用する。
 値段が張るため家族旅行の際は“自粛”したシャワーが付いた部屋で、2人用個室を1人で占拠するという実に贅沢な寝台列車旅行だ。非日常的な豪華体験を満喫できるのにもかかわらず、ペットボトルのミネラルウオーターが2本置かれているのを眺めて「1人で乗るのにラッキー!」と思ってしまう自分の庶民感覚が我ながら嫌になる(苦笑)。
 女性車掌が室内の装備を教えてくれ、「夕食の予約は午後5時半、6時半、8時のどの時間にしましょうか?」と聴かれたので午後6時半に予約。ところが、「鍵はそこに置いてありますね」と確認されたものの、見当たらなかった。前回の乗車時は確かに置かれていたので、前に乗った客が持参してしまったのかもしれない。車掌は「簡単に作れるので、今用意します」と2枚の鍵を渡してくれた。
 この出来事で思い出したのが、アムトラックの寝台列車の米国南部アトランタから東部ニューヨーク近郊まで個室に乗った時のことだ。車掌に「部屋の鍵がないのだけれども」と直訴すると「鍵は用意していない。われわれが見張っているから大丈夫だ」と反論された。しかし、犯罪大国の米国だけに安心できず、食堂車へ向かう際などの“外出時”には常に貴重品を入れた大きなかばんを肌身離さず持ち歩いた(苦笑)。
 車掌が「良い旅を!」という言葉とともに笑顔で立ち去ると、初めて立ち入るシャワー室の様子が気になった。併設したトイレと洗面台だけでもかなりの場所を取るだけに、その奥にどのように部屋を設けているのだろうか?
 扉を開けた次の瞬間、予想していなかった光景が目の前に待ち受けていた…。
(連載コラム(「“鉄分”サプリの旅」)の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 福岡支社編集部 次長・鉄旅オブザイヤー審査委員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社し、松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)編集局経済部、ニューヨーク特派員、編集局経済部次長を経て、2018年12月から現職。九州の主に経済ニュースのデスク業務のほか、運輸・観光分野を中心に取材と執筆、ラジオ出演などを手掛ける。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査委員、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣で、休日には「子鉄」の息子と鉄道旅行に出掛ける。SBC信越放送(長野県)の平日のラジオ番組「らじ☆カン」(午後2時5分~6時15分、http://sbc21.co.jp/blogwp/radikan/)の午後5時台のコーナー「きょうの注目」に他の共同通信社のデスク・記者とともに出演。

2004年5月から通信添削大手Z会(静岡県)の週刊メールマガジン「社会をよみとくキーワード」(http://www.zkaiblog.com/zkai04)を連載中。共著書に『伝える訴える「表現の自由」は今』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。東京外大の校友会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)理事
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